chip of wood

クラスメイト1

 偶然に偶然が重なり続ければ、それはもはや運命とか必然とかそういった類のもので、何かしらの意味をそこに探してしまう。
 一つ目の偶然は45年振りの大雪。交通機関は麻痺し、都会で暮らす人々は、慣れない雪道に四苦八苦した。わたしは高校が休校になったのをこれ幸いと、こたつの中でぬくぬくとみかんの皮を剥き続けた。気まぐれにテレビのチャンネルを回し、雑誌のページをめくり、母の世間話に適当な相槌を打つ。世間の混乱ぶりとは無縁に我が家の一日は過ぎていく。学校から帰宅した弟は、自分の中学が休校にならなかったことがたいそう不満らしく、こたつで丸くなるわたしに嫌味を1つ投げて、同じようにみかんの皮を剥き始めた。やがて父が帰宅し、家族揃って夕飯を食べ、家族揃ってみかんの皮を剥いた。
 

 違和感の中で目が覚める。どうやらこたつの中で眠ってしまったようだ。時刻は朝の4時半。寝起きは悪いはずなのに、意識は何故かすっきりしていた。窓の外は白。止んではいるけど、降り積もった雪はまだこの街に居座っている。悪くない朝だと思う。
 家族を起こさぬようそっと身支度をする。刺すような冬の空気が、なんだかちょっと心地よい。
 クリスマスに父に買ってもらったダッフルコートは、気に入ってはいたのだけれど、毎日毎日着ていればそれは飽きるし、かっこ良く思えた上品な黒も、なんだか地味で物足りなく思えてくる。冬は寒いことが罪なのではない、長いことが罪なのだ。
 玄関の外は見知らぬ世界。毎年赤く染まる軒先の紅葉も、雪化粧のせいでなんだか他人のようだ。
 不意に静かな住宅街に甲高い自転車のブレーキ音が響く。我が家のポストの前に見知った顔。
 「あれ?  相沢くん? 」
 「どうもどうも新聞配達員の相沢です」
 クラスで一番陽気な相沢くんが、陽気に新聞をポストに投函していた。
 「そうかそうか、やっぱりこの榎本家、榎本の家だったか」
 「うん。そう。なんだかんだ言って、やっぱりここがわたしのお家です」
 満足気に相沢くんは頷き、うんうんと一人納得していた。
 「新聞配達員だったんだね」
 「そうなんだよ。早起きだけは得意だし、苦学生っぽくてかっこいいかなって思って」
 「いや、正直かっこいいとは思わないけど」
 えっ! と驚きを隠せずにいる相沢くん。
 「いや、でも似合ってるよ。さっとポストに新聞を入れる姿も様になってるし」
 「だろ? 俺もこの業界向いていると思うんだよね」
 新聞配達に業界もクソもないと思うけど、本人は楽しそうなので問題ないだろう。
 「いつか海外に渡って、自分の才能を試したいんだ。向こうは投げて玄関とか窓に放り込むじゃない。あれかっこいい。憧れる」
 「確かにちょっとかっこいいね。でもそのためだけに海外に行くの?」
 「そうだな。それ以外はまったく海外に興味ないからな」
 陽気な佐々木くんの夢は、やっぱり陽気で、それはとても素晴らしいことなのだとわたしは思ったのだった。
 「それじゃあ。俺はそろそろ行くよ。まだたくさんの配られるべき新聞達があるんだ」
 何故か英文の直訳みたいなセリフを残して、彼は雪道を走り去っていった。
 
続く
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