chip of wood

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真夏の夕方の夢

 その日僕は電車に乗っていた。季節は夏で、そろそろ帰宅ラッシュが始まりそうな夕方、新宿へと向かう埼京線だった。座席に座り、のんびりと僕は揺られていた。ふと隣の席に座る女の子が読んでいる文庫本が目に止まった。タイトルは分からないが文体からして戯曲のようだった。その子はこれといった特徴の無い、黒髪のいたって普通の女の子で、普通の女の子なのに読んでいる本だけがちょっと特殊だった。
 その子はヘッドフォンをしていた。戯曲を読みながら音楽を聴いていた。そこもまた特殊だった。僕ならそんなことは絶対にしないなと思った。
 新宿に付いたので女の子は席を立った。 僕も乗り換えるので席を立った。隣の座席に携帯音楽プレーヤーが転がっていた。綺麗な赤色だった。2秒間ほど考えた。考えている間に女の子は電車を降りていった。ヘッドフォンはつけたままだった。また2秒ほど考えたあと僕は電源の入っていないプレイヤーを手に取り電車を降りた。早足で女の子に追いつき忘れ物を渡した。「ありがとうございます」と言われた。
 感謝したいのは僕の方だった。
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